螢


 (虫の声がする。静かな夜の森の中、ゆっくりと歩いていた八戒、
  足をとめてぼんやり呟く)

八戒「あれ………。
   見失っちゃったなぁ…」

 (背後から近付いてくる足音)

悟空「………八戒?」
八戒(おや、と気付いて)「悟空。どうしたんですか?
   ジープで爆睡してたのに」
悟空「ん、小便したくて目が覚めたら、八戒が
   フラフラ森に入ってくのが見えたからさ。
   連れションしに来た」
八戒(苦笑)「残念ながら、僕は尿意を催した訳じゃないんですけどね」
悟空「そーなの?じゃ散歩?」
八戒「いえ………
   蛍がいたんですよ、さっき」
悟空「ホタル……蛍って、あの光ってる虫?」
八戒「ええ。こっちの方に飛んで行ったんで、
   追い掛けて来たんですけど。
   見失っちゃいましたね」
悟空「蛍かぁ。…ふーん、珍しいのな」
八戒「ええ。最近滅多に見ませんもんね」
悟空「じゃなくて」
八戒「はい?」
悟空「八戒がさ、珍しいな、って言ったの。
   蛍追っ掛けてなんて、八戒でもそんな事すんだー、って」
八戒「そうですか?」
悟空「うん、しなそう」
八戒「…………ジゾウボタル……」
悟空「え?」
八戒「ジゾウボタルだったんです。さっきの。」
悟空「ジゾウ……ボタル?」
八戒「……光がね、普通の蛍より赤いんですよ。だから……
   死者の魂を天国に連れてゆく、お地蔵様の化身と言われているんです」
悟空「天国……。
   ………そっか」
八戒「悟空?」
悟空「探そーぜ八戒」
八戒「え」
悟空「俺も見たい。その蛍」
八戒「……そうですね。探しましょうか、ここまで来たら」
悟空「おう!」

 (歩きだすふたり)

八戒「蛍は水場に集まるんですよね。この近くに小川かなんかが
   あるんじゃないかなぁ……」
悟空「小川?水の音なら、こっちの方から少し聞こえるよ」
八戒「……凄いですね、悟空。僕全然聞こえませんよ」
悟空「へへ」

 (間。ふたりの足音だけが聞こえる)

悟空「………なぁ」
八戒「何です?」
悟空「天国って、本当にあるの?」
八戒「それは……ヘビィな質問ですね」
悟空「うん、別にいいんだけどさ。ちょっと思っただけ」
八戒「そうですね……解釈は宗教によって様々ですけど。
   生前に良い行いをすれば浄土にゆけるから、
   死を恐れずに正しく生きろとか、
   あるいは……」
悟空「あるいは?」
八戒「…遺された人間が辛くないように、ですよ。
   死んでしまった人が天国に行ったと思う事で、
   少しでも遺族が哀しまないで済むように。
   …要は天国という場所は、生きている人間の為にこそあるんです」
悟空「ふーん………。うん。なんか少し解った気がする」
八戒「悟空は?」
悟空「うん?」
八戒「悟空はどう思ってますか?
   例えば……死んだらどうなるのか、って」
悟空「…………うーん…………
   どーともならないと思う。消えるだけ」
八戒「……たまに思うんですけど、
   悟空って案外シビアですよね」
悟空「だって死んだら終わりじゃん。
   …………だけどさ………………。あ!」
八戒「え?」
悟空「八戒、あれ!あそこ!!」
八戒「……!……蛍が………」

 (ザッと視界が開けて、立ち止まるふたり。
  キラキラと、無数の蛍が舞う音が静かに)

八戒(呆然と)「こんなに沢山…………」
悟空「------------------ッ。すげぇ…………すげぇキレイだ……」

 (しばし見蕩れて佇むふたり)

悟空「……あのさ。死んだら、おしまいだけど。
   俺、たとえば死んでも…………ここに居るよ」
八戒「ここって?」
悟空「………みんなのいるトコ。」
八戒「-------------たまに思うんですけど、悟空って案外………」
悟空「あんがい?」
八戒「タラシ、ですよね」
悟空「…はぁあ!?なんだよソレ!!?」
八戒(笑いながら)「はいはい、そろそろ帰らないとね。
   あまり自由行動取ると怒られちゃいますから」
悟空「ん、そーだな」
八戒「ところで悟空、尿意は何処へ消えたんですか?」
悟空「………………あ゛」

                         END.

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ボーカルアルバムのミニドラマ用に書き下ろした、「八戒&悟空」の
シナリオです。この二人はよく「先生と生徒」に例えられますが、
先生が生徒に教えられる事もきっとあるんだろうなと思って書きました。
これ、漫画で描いても良かったなぁと後から思いましたけど。

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