
宿屋。ふたり部屋。
夜である。
八戒「三蔵、コーヒーのおかわりは?」
三蔵「(新聞めくりつつ)……ああ」
コポコポコポ…………コーヒーを注ぐ音。
コト。
八戒「はい、どうぞ」
三蔵「………ああ(新聞めくりつつ)」
八戒「今夜は月が綺麗ですね」
三蔵「………そうだな(あまり聞いてない)」
八戒、ズズとコーヒーを飲む。ご満悦な吐息を大きく吐き出す。
三蔵、新聞をめくる。
時計の秒針の音だけが規則的に。
-------------放送事故かと思われるぐらいの静寂の後。
八戒「しりとりでもしましょうか」
三蔵「……あ?(怪訝そうに)」
八戒「いえ、以前悟浄に『お前らってふたり部屋の時、
どんな会話してんだよ』って聞かれまして」
三蔵「……なんで会話しなきゃなんねーんだ」
八戒「そうなんですけどね。
……で、『そういえばあんまり喋らないですねぇ』
って言ったら、悟空に
『八戒と三蔵って、仲悪ィの?』と聞かれまして」
三蔵「あいつらみたいに始終絶えまなく喧しい方が
おかしいだろうが………」
八戒「まぁでも確かに、あまり会話がないと
倦怠期の夫婦みたいですし」
三蔵「-------バカバカしい」
八戒「会話……。僕と三蔵の共通の趣味、とかって、
何かありましたっけ」
三蔵「ないな(即答)」
八戒「少しは考えるフリだけでもして下さいよ」
三蔵「………(少し黙ってから)ないな」
八戒「非協力的ですねぇ」
三蔵「…あのな。いいか。
俺の趣味は静かに、心安らかに、自分だけの時間を
過ごす事だ。お前もそうだろう八戒」
八戒「ええ、その通りです」
三蔵「それがお前と俺との共通の趣味だ。
よってお互いの趣味のひとときに、無理矢理会話を
する必要性はどこにもない。」
八戒「なるほど、正論ですね」
三蔵「どうせまた明日の朝になれば、これ以上ないくらい騒がしい
隣の部屋の馬鹿どもと顔突き合わせなきゃならねーんだ。
今ぐらい、俺達が趣味を満喫したってバチはあたらん」
八戒「-----------(にっこりと)そうですね。
そうだ三蔵、コーヒーにブランデー入れませんか?」
三蔵「(ニヤリと)……悪くねぇな」
八戒「(微笑んで)ええ」
コポコポコポ。
穏やかな時間。
三蔵「…なんだ、今夜は月が綺麗だな」
八戒「それ、さっき僕が言ったんですけどね………」
END.
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ボーカルアルバムのミニドラマ用に書き下ろした、「八戒&三蔵」の
シナリオです。この二人だけの会話って、ともすると重いものに
なりがちだし、第三者がおいてけぼりの内容になってしまうのですが、
そこに悟空達を少しからめると和らぐから不思議です。